日本は普通じゃない方がいいのじゃないか

まえおき

たとえば「在日コリアンが持っている『特別永住者』という在留資格はおかしい。日本国籍を取得させるべきだ」という考えがある。また「日本国は様々な民族からなる国家になるべきだ。日の丸はその国家の象徴になるべきだ」という考えもあるように思う。
僕は、ザイトク会的なものの次に、こういう考えを心配している。もしザイトク問題が解決しても、この問題は残ってしまうのではないか、そういう不安がある。なので、この記事を書いた。不安に根拠があるのか、と言われれば「印象程度です」と答えるほかない。杞憂に終わればよいと思う。

本文

日の丸を国民の統合の象徴とする、というアイデアには反対だ。多様なエスニシティの人々を日本国民として統合するという話にも賛成できない。日本国は様々な国籍をもつ人々が共存する場所であるべきだと思う。なぜなら、それが日本のナショナリズムの唯一のありかただと信じるからだ。

ナショナリズムは、克服され、消滅すべきものだろう。だが、それは遠い未来の課題である。現状では「ナショナリズムをできるだけ無害にする」ことで妥協するほかはない。以上が一般論だが、日本の場合、「大日本帝国を再現しない」ことも重大な課題としてある*1

「戦前に戻らない日本国」をつくるには、二つの方法がありえる。ひとつは、過去と完全に切れた新しい国を作ること。国旗、国歌はもちろん、体制も変える。もう一つは歴史や伝統をひきうけつつ、国家をできるだけ力の小さなものに変えていくことだ。

二つの選択は、もちろん、戦後すぐの時期にも可能だったはずだ。

だが、前者の選択はなされなかった。そこには色々な理由があっただろう。「国体の護持」にこだわる軍と政府、保守層からアメリカ政府までが等しく抱いていた共産主義への警戒感、占領を円滑に進めたい連合軍の意向、ソ連の存在…。ともかく、天皇制、明治以来の憲政*2、日の丸、君が代は維持された。

結果として後者のラインが選択され、それが「日本国憲法の神話」につながったのだと思う。「我々は新しいタイプの国家を建設するのだ。それは平和主義に基づく民主的な福祉国家である」という神話が。それは、「我々は世界のどこよりも先進的である」という、明治後の日本人がずっと抱いてきた自尊感情をも満足させるものだったはずだ(実際、初期のゴジラなどでは、首相が「戦争を放棄した国でなければ言えないこと」という台詞を言うシーンが出てきたと思う。「唯一の被爆国」という常套句も忘れがたい)。

その欺瞞性はさておこう。実質的な再軍備アメリカの軍事戦略を補完する存在だったこと、怪しげな「日本型福祉」にも目をつぶる。どれほど偽善に満ちていようとも、戦後日本の神話は日本ナショナリズム大日本帝国への反省を両立させるという意味で、なかなか冴えた解決策だったと僕は思う。

それは、一言で言えば「国家でないふりをしようとする国家」だった。「軍隊ではなく自衛隊」という言い方も、その一環だ。「国旗ではない日の丸」「国家ではない君が代」「元首ではない天皇」などの奇妙な装置も、それだったのだと思う。もちろん、実際にはある。自衛のための交戦権を軍隊なしに確保することは困難だし、政府の艦船や航空機にマークをつけないわけにもいかない。国際慣行上、歌だってあったほうがいい。安全保障戦略も、国益の確保だってやる。だけど、それは「やむを得ない緊急避難」として行うのだ、という建前がそこにはあったと思う。そして、少しづつでも理想の状態ににじり寄っていくのだ、と。

そして、この原則を国民の概念に適用すれば、「国民も、国民でない人でも同じように扱う」という方針が出てくるはずだ。もちろん、これは実現していない。これは日本の統治機構がずっとこだわっている最後の砦のようなものだったと思う。特別永住制度はそこに穿たれた穴だ。進めていくべきなのはそこを広げていくことではないのか。

戦後体制は偽善だったかもしれない、不十分だったかもしれない。だが、そこには、僕らの先輩たちが、あの決定的な敗北の中から掴み取った教訓がある。戦後の70年の間、日本に暮らす全ての人々が手さぐりで見つけてきた答えがある。それらをしっかり継承していくべきだと僕は思う。

それを自虐だと攻撃し、陰謀だとして修正し、「普通がいい」といって放棄することは、「大日本帝国を反省しない普通の国民国家」という、最悪のものを導入することだ。あの戦争の犠牲と教訓を無駄にすることだ。そのようなことはすべきでないと僕は思う。

*1:大日本帝国は戦前の日本国号だが、そこではナショナリズムがあきらかにおかしな方向にむき、侵略や戦争に向かわせる原動力の一つとなった。それを再現しないことは、世界に対する日本の義務であると僕は思う。

*2:日本国憲法明治憲法を改正する形で作られ、全く新しい制憲権力の確立は行われなかった