2.アウトロー社会史本

もちろん、これは包括的なリストではない。というか、今回はシステマティックな文献検索はしていない。あと「社会史」ということで、主に現代を扱ったものは入れなかった。以上をお断りしたうえで、今回読んだ本を軽く紹介。

中世から現代まで、アウトローの歴史を*1幅広くまとめた本で、「古典」として高く評価されている労作。事実関係やエピソードを確認するのに大変重宝する。残念なのは網羅的になるあまり、読んでいて全体像が把握しにくい印象があること。また、「アウトローとは何か」という問題の掘り下げもやや浅い印象がある。

江戸末期以降のアウトロー史を7つの局面に分けて紹介したもの。かなり良く記述が整理されていて、わかりやすい。また学者的にいうと参考文献が多いのも好印象で、考察も充実している。後述する『病理集団の研究』と『博徒と自由民権』はこの本から教わった。惜しまれるのは歴史と文献学の間でやや中途半端なスタンスになってしまっていることだ。また(これは別に欠点ではないが)独自の取材は行われていない気配が強い。

手練れの歴史家、野口氏による江戸幕府の洋式陸軍についてのレヴュー。一次史料が多数引用され、読み物としても整理されていて、面白い。これがアウトローとどうかかわるのかは、追々書いてゆくことになろう。今回まとめていて気付いたが、意外と事実関係を勘違いしやすい構成になっているのと、一部出典が明記されていないのが欠点だが、新書なのでやむを得ないともいえる。

民俗学の大御所が書いた、武士の民俗学。ちょっと学術書っぽいし、はっきりいってアウトローの本ではない。これもどう使うかは後で説明する。史料としては、近世の武士の斬りあいの報告書などが多く紹介されているところに価値があると思う。「咄嗟に手で受けてしまうので左手の骨折が多い」とか、「鬢や耳を斬られることが多い」というようなことはこの本でしか学べない。

  1. 氏家幹人2007 『サムライとヤクザ』ちくま新書

気鋭の若手というか中堅というか、膨大な量の著書を出すので有名な歴史学者の本。氏家さんは千葉さんにも引用されていたりして、武士の社会史への関心という点が共通している。この本では武士とアウトローの関わりを大胆に描き出す。もちろん史料多数。アウトローという言葉は使わず、「やくざ」「おとこ」と言うような表現をしている。『幕府歩兵隊』からの引用もある。

  • 岩井弘融1963 『病理集団の構造:親分乾分集団研究』誠信書房

50年前に出版された、アウトロー研究の金字塔。著者は社会学者で元東京都立大、東洋大教授。資料・史料を網羅している点、充実したフィールドワーク、理論的バックボーン、電話帳並みの分厚さなどの点で他の追随を許さない。唯一の欠点は、記述と理論紹介と分析が交互に、かつ少しづつ提示されるので「順番通りに最初から最後まで」という以外の読み方がしにくいこと。

幕末、明治初期の政治・社会運動と博徒*3の関わりを研究した本。名古屋を中心に活動しておられた歴史家の本なので、「名古屋事件」と呼ばれる自由民権運動の事件、東海地方の博徒尾張藩の事情、などを中心とした記述になっている。多数の史料が縦横に用いられた大変充実した研究で、大変勉強になった。全体像の把握にはもちろん向かないが、それは本書の責任ではない。

*1:本文中ではヤクザでなくアウトローという表現が使用されている

*2:著者名は「こいしかわ」と読む

*3:賭博経営にかかわるアウトロー。「やくざ」の本流