ひとり暮らし

僕は一人暮らしをしたことがない。

ということを言うと、さっそくに管理能力から家事一般、計画性から責任感に至るまで、激しい攻撃を仕掛けてくるのが、一人ぐらし経験者の不思議なところである。一人ぐらしをした人が複数いれば、必ず即席の同盟が発生する。なんつうか、マフィアみたいなものなのかもしれない。

そのたびに「いや、一人暮らしをしたことがないのは、面倒を見るべき親族がいたり、自分にも家計にも独立できる余裕がなかったりするからなんだけどな」と思ったりするのだけど、まあ、そんなことを言っても仕方がない。その話をする人は、いきなりディープ格差社会ネタを振りたいわけではないのだ。


家事その他の話であった。


いや、確かにそれはそうだと思うのだ。一人で暮すと否応なしに家事をしなくてはならないし、家計も計画的に管理しなければならない。だから、そういう能力は身に付くだろう。とはいえ、それは一人ぐらしをしなければ身につかないものなのだろうか?

たとえばの話、洗濯である。ひとりで必要に迫られ洗濯して、試行錯誤を繰り返して洗濯のノウハウを身につけるのと、親元でさまざまな技を盗んで覚えるのと、どちらが効率的かつ内容的に豊富なのか。たとえば大学で一人暮しを始めた場合、カッターシャツのアイロンのかけかたは学習する機会がないのではないかと思うが、どうか。社会人になって困ってしまわないのか、え?
料理もそうではないか。家でなら「これ、どうやったら美味しいの?」の一言で済むのだし、実地でなければ習えないことも教われる。それを何故わざわざ孤立して学習せねばならぬのかと、僕は思うのだ。


いや失敬。頭に血が昇った。


実は、僕は片親の家庭に育ったので、子供のころから家事はひととおりやってきた。掃除もしたし、洗濯も、料理も、買い物もした。パートナーが遠隔地に引っ越すまえは半同棲のようなことをしていたので、家事の切り回しもそれなりにやったことはある。
それで今はやっているのかというとこれがまるでさっぱりで、それはまあ母親が家にいることが多くなったのであんな面倒なことは卒業することに勝手にしたからなのだが、それはともかく。

半同棲している時に思ったのは、やっぱり彼女のほうが手際は良いし、時間配分などは圧倒的に上手いということだった。そこは一人暮らし経験者(彼女は高校を出てからずっと一人暮しという筋金入りなのだ)にはかなわない。

けれども、ある種のノウハウ、たとえば計画的な買い物だとか、お弁当の作りだとか、衣類の収容だとか、そういう面では僕に若干の長があった。それは、もちろん僕が賢かったからではなく、親のやり方を実地に学んできたからだ。特に子供にはさせられないような仕事に関しては、僕の方が色々知っていることも多かったと思う。


というわけで、実家にいたって学べることはあるぜ、と改めて主張したいと思う。要はどれくらい経験があるかなんじゃないだろうか。