ささやかだけど、面白い本

帝王(リーガル)の陰謀 上 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)
 
帝王(リーガル)の陰謀 下 <ファーシーアの一族2> (創元推理文庫)
おそらく、この本のタイトルと表紙を見たあなたはこう言うだろう。「また凡百のファンタジーではないか」「なんだか中世ヨーロッパ風の舞台と、超能力を組み合わせたストーリーだろう」「人生いかにいくべきかが書かれているわけではないし、『指輪物語』を越えるものでないことは間違いない」「おまけにシリーズもので、一冊一冊も安くはない」どこに価値があるのか、と。全くその通りだ。にもかかわらず、僕は3部作の一作目に続いて二作目、しかも各上下巻になってるやつを買ってしまった。この作者さんは劇的な場面を書くのが上手いし、動物の心理描写というちょっと毛色の変わった試みもしてしかも成功しており、おまけにストーリーテリングがいい。しかも訳文のこなれが非常に素晴らしい(「ドラキュラ紀元」のシリーズと同じ人だ)。人生の数時間をともに過すだけの価値はある。

時々思うのだけど、読書はセックスに似ているのではないだろうか。その方面での経験がすごく豊富だというつもりはないけど、相手を信頼して自分の身と心を預け、ともに素晴らしい経験を築いていくということなのだ。簡単に「これ」ってわけにはいかない。この作者/訳者さんに出会えたのは、幸せなことだったと思う(んで「3」がまた高いんだ、これが)。